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読む 木づかいインタビュー

中村 孝則さん

都市から秘境まで旅を通じて、世界を知り尽くした男の提言

森や木々への理解や、かけがえのなさへと思いを馳せる
例えそれが南極であっても探検ではなく、あくまでラグジュアリーなライフスタイルをテーマに、 飛行機で、時には船で世界を駆け回る中村孝則氏。 神奈川県・葉山で生まれ育ち、ネイチャリストでもある、中村氏のグローバルな経験と視点で、 自然と人間のあり方、ライフスタイルについてヒントを寄稿していただきました。

 中村 孝則さん

その森の起源は、はるか一億年。いま現存する世界最古の森に、美しき地球の姿を見いだす。

 中村 孝則さん

 オーストラリアに世界最古の森がある。オーストラリア北東部に広がる熱帯雨林である。その森の起源は、いまから遡ること1億3000万年前だ。ジュラ紀の後期にまで頃まで遡る。その頃の地球は、ゴンドワナ大陸という巨大な大陸でつながっていた。そして、その大陸はジュラ紀後期以降に分裂して現在のアフリカ大陸や南アメリカ大陸、オーストラリア大陸や南極が出来上がる。そのゴンドワナ大陸の原始の森が、当時のまま全く手つかずで残されているのが、このエリアの「クイーンズランドの湿潤熱帯地域」なのである。面積そのものは、オーストラリア大陸の約0.1%に過ぎないが、有袋類は全土の30%、鳥類は18%、は虫類も23%が生息する自然の宝庫である。単孔類のカモノハシをはじめ多くの稀少な動植物が生き残っている。植生も原始のままの姿を受け継ぎ、他の木に巻きついて成長し、やがて寄生する木全体を包み込んで枯らしてしまう「絞め殺しのイチジク」など、固有の珍しい樹々も生き延びている。“世界最古の熱帯雨林”と呼ばれるゆえんだ。1988年には、この一体がユネスコの世界自然遺産にも登録されている。クイーンズランド州東北部の沿岸部から、テインツリー国立公園など40もの国立公園とし大切に守られている。


その森は、ただ残っていただけではない、そこに棲む人々によって残されたのである。

 中村 孝則さん  中村 孝則さん

 森の玄関口は、オートラリア東部のケアンズだ。ケアンズから北へ約80キロ。クルマだと2時間強の距離だ。そこに広がる森が、世界最古の森である。このエリアそのものは、デインツリー国立公園として、国の管轄として厳重に守られている。特に1988年には、このエリア一帯がユネスコの自然遺産にも登録されてからは、世界的にも知られるようになった。世界共通の守るべき森として、とりあえずは認識されたというわけである。しかし、この森が1億3000万年ものあいだ、偶然に残っていたわけではない。実は精霊が宿る畏敬の森として、代々アボリジニーの聖地にもなっているのだ。今も特定の場所以外は彼らの許可がないと無闇に入ることも、そして動植物を捕獲することも許されない。彼らは代々、森の庇護者でもあったのである。人と森との共存。それは、アボリジニーたちによって、実践されていたのである。彼らは今でも森の恩恵を受けながら豊な生活をし、そしてその恩返しとしてちゃんと森を守ことを伝統している。たとえばこの森には、モスマン川という世にも美しい清流があるが、つい最近まで、アボリジニーの妊婦はその川の中で出産する習わしになっていた。しかし、考えれば我が国の森も先祖代々大切に守られてきた。森とは単に自然保護だけで守られるものでもない。生活や伝統、宗教や文化などによって、伝えられものでもあろう。オーストラリアの世界最古の森は、今もそうして伝統によって生き残っているのである。



日本の宿も見習ってほしい!手つかずの大自然を大切に守りながら、
独自のエコ・ラグジュアリーを実現する公共ロッジ。

 中村 孝則さん  中村 孝則さん

 その森の奥深い渓谷の一軒宿が、このシルキー・オークス・ロッジである。創業は1984年。森の景観や環境を崩さす、ギリギリまでアプローチした野趣あふれるロッジである。客室のテラスやレストランやロビーは、すべて原生林に大きく開かれている。ロッジの下を流れる川は日本の渓流を思わせるほど水が美しい。その川には朝方カモノハシが悠然と泳いでいた。もちろんゲストも自由に泳ぐことも可能だ。ロッジのまわりは、ゲスト専用のトレッキングコースが幾つかあり、ガイドを伴ってネイチャーツアーに行くことができる。
 特に、夜のネイチャーツアーはスリリング。オーストラリア特有の稀少な動植物との出会いは貴重な体験だ。こうした太古の大自然を全身で体感できることが、このロッジの最大の醍醐味であろう。太古の森の息吹とその精霊に包まれながら、しかもリュスクに過ごすことが出来るエコ・ラグジュアリーのお手本のような宿に仕上がっている。こうした体験を通じ、森や木々への理解や、かけがえのなさへと思いを馳せることは有意義なことでもあろう。その意味でも一度は訪れて欲しい森の宿なのである。



中村 孝則さん

Columnist


コラムニスト
中村 孝則
Takanori Nakamura

ファッションやグルメ、旅などラグジュアリーライフをテーマに新聞や雑誌で活躍中の人気コラムニスト。またフジTV「笑っていいとも!」やBS朝日「プレシャス&コンシャス」で、ゲストコメンテーターとして出演。講演やトークショーでも引っ張りだこ。'07年にフランスで最も由緒ある、シャンパーニュ騎士団のシュバリエ(騎士爵位)の称号を叙勲。渋谷金王道場指導剣士で剣道練士六段。大日本茶道学会茶道教授。