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読む 木のある暮らしと私

私の建てたい家

丸山みのるさん(和歌山県)


わたしは、紀伊半島の南に位置する熊野地方に暮らしている。空気がきれいで、水がおいしいところだ。もともとわたしは、山とは縁が遠い千葉県の住宅地で育った。しかし、小学生の頃に父親の仕事の関係でアメリカに生活をしたことをきっかけに、山への憧れを持った。アメリカで暮らした家は、自然に恵まれた所で、家の周りでリスが走ったり、タヌキが家の中に入ってきたりしていた。その頃から、将来は自然の中で森を守る仕事をしたいと考えていた。

長野県の大学で林学を勉強したのち、森林ボランティアや砂漠植林ボランティアなどを行うNPOの団体で働いた。東京の事務所から全国各地へ飛び回り、中国の砂漠にも頻繁に通った。たくさんの人との出会いに支えられ、自然を守り育てる仕事として、とても楽しかった。しかし、だんだんとわたしは、自分の身を自然の中に置いて、色々な人を迎える立場になりたいと思い始めた。おいしい水を飲んできれいな空気を吸いながら生活をしたかった。そして、ちょうど結婚も重なり、現在の和歌山県に来ることになり、またタヌキやシカが出没する田舎に暮らすことになった。 ここの集落に建つ家は、大きくはないが、とてもきちんとした家ばかりだ。土間や縁側があり、木でできている。おじいさんに話を聞くと、若い頃に自分で建てたと言う。自分の山から木を切って出し、木材を一つ一つ組んだ話を聞かせてくれた。柱一本、梁一本、すべてに思い出が詰まっている。そこにおばあさんの思い出も重なる。山からとってきた薪で、ご飯を炊き風呂を沸かした。その家は、すでに50年くらい建っているのだろうか。 最近家を建てたという、知り合いを訪ねた。若い女性がひとりで建てたとは思えないすてきな家だ。すごい!と感動するわたしに、「でも、近所のおじさんが教えてくれたし、手伝ってくれたから」と楽しそうに話してくれた。彼女の生活に合わせた台所や、棚などの空間設計がその土地の空気にもなじんでいて、心地よかった。きっと年数が経つと、あのおじいさんの家や、集落に建つ家々みたいな木の色になり、つやが出て、さらに味が出るのだろうと思った。そして、新しく建ったその家が、土地に生きている知恵や伝統に対して、全く負荷をかけていないことに気づき、ほんとうに気持ちがよかった。 わたしも、いつか自分の木の家を建てたいと思った。自分の生活にも、土地にも合っている、無理のない家を建てたい。わたしは今、幼少時代にあこがれていた自然の中での暮らしをしている。自然と共に、山と共に、歴史を重ねてきたおじいさんやおばあさんの家のように、自分の歴史を重ねていける家を夢みている。