自分が使っている木の産地に関心を持ちたい。
樹木ライター・編集者・デザイナーの肩書きを持つ林将之さんは、全国の森を渡り歩き、執筆、森林整備・調査、通信教育などの活動に取り組んでいます。
林さんがボランティアとして手入れ・管理に参加する神奈川県秦野市の里山を案内していただきながら、お話を伺いました。
「自然がないとダメですね。3年前から神奈川県秦野市に住んでいますが、富士山や丹沢の山々が見えるし、自宅のすぐ近くにも雑木林があるし、ほっとします。以前は渋谷の会社に勤めていたのですが、近くに公園もなく、自分でも病んでいたなあと思いますよ。ここでは、空や風景を眺めると、その日の天気もわかる。畑を借りて野菜をつくって、ストレスのない生活です。
生まれ育った山口の家は海まで5分、近くには山もありました。子どもの頃から自然の中で遊んでいたんです。ものづくりも好きだったので、デザインと自然の両方を生かせる造園設計を大学で学ぶことにしました。庭園の設計図面を書くには、木を知らなければいけないわけです。でも、従来の樹木図鑑に載っているのは花や実ばかりで、葉しかついていない木を見分けるのは難しい。だから、わかりやすくしたいと思って、葉で木を見分ける方法を独学したんです。そして本を出したり、全国の森を歩いていろいろな活動に関わるようになりました。
森林管理の国際認証であるFSC、FM認証を取得した森林ボランティアグループ『緑のダム北相模』、棚田と雑木林の管理を行う『自然塾丹沢ドン会』、2008年からは地元・秦野市の森林ボランティア活動にも参加しています。フィールドワークを通じて知ること、学ぶことはたくさんあります」
「森林は、観察したり保護するだけのものではなく、人間が生きていくために必要な資源でもあります。適切に木を伐って、伐った木や副産物を生かすことが大切です。しかし、最近はあちこちで森林ボランティアグループが増えていますが、何のために森林を管理するのか、目的がはっきりしないところも多いように感じます。きれいな景色を見るだけではなく、生活の中に里山をどう生かすのかが悩みどころなんですね。自然のために何かいいことをしたい、という人は多いのですが、知識が不足しているのではないでしょうか。
例えば、日本の木材自給率。1960年は約80%だったのが、今は約20%なんです。身近な樹木との結びつきが薄くなっている。確かに、木を伐り出した後に若木を植えた光景を見ることは、あまりありません。生活の中でこんなに木をいっぱい使っているのに、伐った場所が見当たらないのは不思議でしょう? それだけ輸入材が多いということなのですが、自分が使っている木材が国産材なのか輸入材なのかに関心を持つ人は少ないと思います」
「家の中や身近なところを見回し、使われている木材がどこの国の産なのかを、一度調べてみてはどうでしょう? 自分自身も経験したことがあるのですが、家の柱は北アメリカ産、紙の原料はオーストラリア産、バーベキューの炭は東南アジア産、……というように、輸入材が非常に多いことがわかります。中にはもちろん国産材のものもあって、国産材や輸入材か知らずに使っていたことに改めて気づくはずです。
例えばホームセンターに行ったら、売っている木材の産地をスタッフに聞いてみる、ということでもいいでしょう。いずれは木材に産地が表示されるようになるといいですね。国産材を使うことは大切です。そのためには、我々が木材をただ使うだけではなく、産地にも関心を持つことが大事だと思います」
Tree writer
1976年山口県田布施町生まれ。千葉大学園芸学部で都市環境デザイン学を専攻。造園設計を学んでいた学生時代、既存の樹木図鑑がわかりにくいことに疑問を抱き、葉で木の名前を調べる方法を独学。葉を直接スキャナーで取り込む撮影方法を確立する。2000年に開設した樹木鑑定サイト「このきなんのき」には、年間1500件以上もの鑑定依頼が寄せられている。神奈川県秦野市在住。
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