「今週のお花」1種類しか花のない花屋、始めました。
レストランウエディング・プロデュースの先駆者として知られる食空間コーディネーターの渡辺ゆり子さんが最近、
始めたのは「今週のお花」として、1種類の花だけを置くフラワー・ショップ。「木とともに育った」という渡辺さんの花や木に対する思い入れ、そしてこだわりについてうかがいました。
「私は、世の中でおかしいと思ったことを仕事にしています。もともとテーブルコーディネートをしていた私が、フレンチシェフの石鍋裕さんとともに、レストランウエディングを始めたのは、ホテルのお仕着せのウエディングはおかしいと思ったから。一生に一度、自分が主役で大金を使うウエディングなのに、デザートにメロンが出るかどうかで予算を値踏みできたり、会場のお花も自由に選べないなんて変だなあと。でもすっかりレストランウエディングが定着した今、また別のことがしたくなって。 それで始めたのが、このフラワー・ブティック『LILI LA YULI』です。お花屋さんだけど、店にバケツを置かない、保存用の冷蔵庫もナシ、扱うお花は1種類だけ。今のお花屋さんって、年中同じ花が並んでいるでしょう? バラもガーベラもカーネーションもいつも豊富に揃っているけれど、よく考えたらそんなのおかしい。
桜は私の大好きな花ですが、桜は1年のうちのほんの一週間が見ごろ。だからみんな愛でるし、桜の季節を楽しみにするんです。でも本当は、どの花にも木にも桜同様の「旬」があるはず。私の名前がゆり子なのは6月生まれで庭に百合の花が咲いていたからなんですが、今はいつでも百合がお店に並んでいるせいか、百合の旬がいつか知らない人ばかり。だったら今が旬のものを一種類だけ置こうと。それもあえて他の店では扱わない、桜や藤、沈丁花のような木に咲く花を主にチョイスして。コンセプトは『一期一会』をもじって『一華一会』です」
「“LILI LA YULI”をパッと見て、フラワー・ショップだと思う人はまずいないのでは。店頭に花が並んでいるわけでもなく、奥に花を保存してある冷蔵庫もなし。もともとお店の作りが細長くて、バーにぴったりだったから、フラワーアレンジのための台をわざとバーカウンター風にしてスツールも置いちゃった。遊び心でとことんバー風にしようと、天井まである棚には花器のほかにシャンパンのボトルも並んでいるし。花をアレンジしている間、お花を買いに来られたお客様にシャンパンでも飲んでお待ちいただこうと思って。こんな花屋さん、他にはないでしょ。ふふふ。
お店の内装はモダンクラシックなテイストにしました。外壁や棚に木をふんだんに使ったのは、花を引き立てるだけでなく、木のあたたかみを盛り込みたかったからです。私の横浜の実家は祖父の代からの古い一軒家で、庭には柚子や柿、泰山木、そして百年以上経つ桜の木もあるんですよ。
そのせいでしょうか、木がそばにあるととても落ち着きます。
家具や内装だけでなく、住む家も同じ。今の家は佃島にある高層マンションですが、玄関のドアを開けると階下には川辺に桜のじゅうたんが広がります。マンションの周りにも桜のほかにオリーブなどが植えられているので一年中、木と一緒。
このロケーションに一目ぼれして住むことに決めたんです」
「私には子供がいないので、その代わりにと思って子供地球基金のボランティアをしています。次代を築く子供たちのために、なにか少しでもお手伝いできることがあればと考えています。そんな子供たちに残したいのは、美しい木があって清らかな水がある健やかな環境です。
木は人間と同じように、長い年月をかけて育って行きます。子供と同級生の木もあれば、大先輩の木もある。若々しい木や老成した木がそれぞれに出す“気”に触れながら成長して欲しいですね。子供に与えるよりよい環境には、いろんな条件があると思いますが、そばに木がある暮らしというのは、その条件のひとつだと思うんですよ。
木に芽が出て花が咲き、葉が茂って色づいた葉が落ちるのを見ることで、命の素晴らしさを感じられると思うし、春には花を楽しんで、夏は木陰で涼み、秋の紅葉を愛でて、冬には寒さを耐え忍ぶ様子を実感することで日本の四季を知り、情緒が育まれる。花だけでなく野菜や果物にまで“旬”がなくなった今こそ、木とともに育つ経験が重要なのだと思います」
Coordinator
テーブルコーディネートからフラワーアレンジメント、インテリアにも精通する、食空間及びウエディングのトータルコーディネーター。業界初のレストランウエディングを手がける。現在、レストランやホテルのコンサルタントのほか、トークショー、TV、雑誌などでも活躍中。著書はレストランガイドの「オヤジのトキメキダイニング」(主婦と生活社)など多数。
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