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読む 木のある暮らしと私

木のある家

戸倉 由紀枝さん(東京都)


お酒を飲みに行ったり、遊びに出かけるよりも、私は昔から、家でのんびり本や雑誌を読むのが楽しいという、『お家大好き』人間である。 現在のアパートに引っ越してから、そんな『お家大好き』にさらに拍車がかかった。私たち夫婦が住むアパートは、『ウッディヴィル』という名の通り、木のアパートである。よくある安普請の木造アパートとは違い、不動産屋の宣伝文句『アーリーアメリカンタイプ』という通り、木造の洋館アパートである。

夫と私が海外での仕事、留学を終え、日本で就職し家を探した。二人で住んでいたイギリスのレンガ造りアパートは、家の中は随所に木が取り入れられ、古いけれど味のある素敵なアパートだった。日本じゃそんなアパートには住めないなと最初から諦めていた。 家探しに疲れ、それまでに見た鉄筋コンクリートマンションの中から決めようと話し合っていた時、ふと通りかかった不動産屋の窓ガラスに、『アーリーアメリカンタイプの木造アパート』という文字を見つけ、すぐに二人で見に行った。ペパーミント色の外観も、ドアも床も全てが木の部屋も、すぐに気に入り即決した。窓枠も木でアルミサッシじゃない。2DKだけど木の廊下もある。オーナーの心意気が随所に見られるこのアパートは、敷地、入り口、アパート2階部分の通路もすべて余裕のある広さだ。そのせいか、貫禄のあるアパートに見える。さらに嬉しいことに、『ウッディヴィル』の前に建っているオーナーの家は、純和風(シック?)な木造平屋で家の周りに大きな木々が茂る。春や夏には部屋のベランダから木々の緑が見え、枝と葉が風に揺れて『さらさら』とやさしい音が聞こえる。 このペパーミント色の建物は青空によく映える。上手に写真が撮れればきっと素敵なポストカードになるだろう。私はこのアパートを眺めるだけでなんだか幸せな気持ちになる。 木のアパートには、木の家具が良く似合う。そう思って、木のダイニングセット、木のベッド、木のソファ……全て木で揃えた。母親が愛用していた、アンティーク風の小さな木のテーブルを送ってもらい居間に置いた。木の家で、木の家具に囲まれた生活は、なんだかやさしい気持ちになれる。『まるでプチホテルにいるみたい』と言うと、夫は苦笑いするが、私はこの木の部屋の中で、木のベッドに寝るのも、木のテーブルにお気に入りの雑誌と紅茶を置き、木のソファに座り紅茶を飲むだけで、幸せな気持ちになれるのだ。たまの週末には花を買い、ダイニングテーブルの上に飾り、テレビを消して静かな音楽を聴きながら、夫と二人で夕食を取る。安もののワインだけど、のんびりおしゃべりしながらの夕食は、ちょっとリッチな気分になれる。 もし将来私たち夫婦が自分たちの家を持つとしたら、木の家にしたい。木の家はなんだか住む人をやさしくしてくれる。