民辻 佳子 さん(長野県)
わたしが子供の頃、父母のおかげでふんだんに木に触れるしっとりした日々をおくっていたような気がします。 と言うのも、わたしは吉野林業地域の奈良県川上村で生まれ、曽祖父・祖父・父と代々『山守』を受け継いでいる家庭で育ちました。子供の頃は父に連れられ、よく手入れされた富野の山に通い、山菜取りや川遊びに夢中になったものでした。また、時々は父に教えてもらいながら子供でもできるひも打ちなどの山仕事を手伝いました。
そんな環境だから、実家は、曽祖父や祖父が大切に育てた吉野のスギ、ヒノキをふんだんに使った家でした。また、家の中にも木でできたものがたくさんありました。身近なものから思い出してみると、吉野スギでできたものは、お湯をかけると良い香りのするバスタブ用のふた、垂木のような角材でできたベンチ、父が間伐してきたスギの丸太のいす、収納ボックスなどがありました。吉野ヒノキでできたものには、毎日使うまな板、素足で気持ちいいスノコ、庭でご飯を食べる時用のテーブルの一枚板などがありました。これらはすべて父母の手作りの作品でした。この他にも、割り箸は吉野杉の割り箸でした。 子供心ながらに、スギでできたものは軽くて持ち運びがしやすくてよい、ヒノキは硬くて丈夫だなと思ったものでした。また、子供時代を過ごした吉野の木々に囲まれた実家は、吉野の木々が散りばめられたお家だったなと思うことができました。 このような子供の頃の経験から、大人になったわたしが心がけていることは、日常のさりげないところでさりげなく木を使うことで小物入れなど木のものはたくさんあります。 まな板をはじめわたしの身の回りにある木のものは、毎日何気なく使うものが多いのですが、毎日触れることが私にとっては心地よいことなのです。なぜなら、吉野の木に触れると、離れていても脳裏にパッと吉野の山が浮かび、吉野の山へ里帰りしたような感覚にさせてくれます。秋田杉でできたお弁当箱を持つと秋田の山が思い浮かび、その場所にいるような感覚にさせてくれます。そんな時、わたしは山とつながっているのだなと思えて気持ちがスーツとするのです。 今わたしは、山守の父の影響もあり森林・林業に携わる仕事をするようになり、長野のNPOで里山保全活動や子供たちとの森林体験学習活動を行っています。今でも、子供の頃に触れた木の感覚を思い出します。そんな感覚をこれからも大切にしながら、わたしの身近なところにある木のもののように、わたしも人と山をつなぐような人になりたいと思いながら日々を過ごしています。
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