読む

読む 木づかいインタビュー

奥田 透さん

白木のカウンターへの思いが気づかせてくれたこと。

木が発する気のようなものに、人はいやされる。
道具やしつらいなど、木の文化と密接に結びついているのが日本料理。日本料理ひとすじに歩んできた奥田透氏は、銀座にご自分のお店「銀座 小十」を開くにあたり、木を使うことに深い思い入れがあったといいます。その思いをお聞きしました。

日本料理

樹齢270年のヒノキのカウンターの前でお客様がほっとした表情を見せてくれます。

日本料理

「白木の一枚板のカウンターをつくることが夢でした。カウンターは店の顔です。ずっと思い入れがありましたから、念願かなって銀座に出店することになったとき、これだけは譲れなかった。樹齢270年の備中ヒノキで、厚さは10mm近くあります。継ぎ足しや張り合わせでない、本物中の本物です。
 この材はあちこち探し回ることなく、1回で見つかったんですよ。これだけの長さがあって無傷のものは、本当に珍しいそうです。思いが強かったからでしょうか。運を引き寄せ、不思議な力が働いたのかもしれません。
 お客様もにっこりして、“いいね!”と言ってくださいます。このカウンターの前にすわると、自然と木肌に触れたくなり、何となく落ち着くようですよ。私自身もそうなんです。今なお、270年の生命の気を発していて、私たちの心に対し、静かに働きかけてくれているのだと思います」



木の空間と日本料理。"自然の中で、自然をいただく"ことは理にかなっています。

日本料理

「カウンターの上にはお膳を置きますが、これはいただいたもので、樹齢3000年のヤクスギ。今は伐採してはいけませんから、貴重品です。割り箸は赤スギ。まな板はカウンターと同じヒノキです。木のまな板は余分な水分をとってくれるし、包丁の刃に対してやさしいですね。
 器として、道具として、内装材として、店の中には木がふんだんにあります。
 木を使うのは日本の文化ですし、やはり心地がいい。そして、日本料理は季節感と食材を大切にする。“自然の中で、自然をいただく”というのが、人間にとって一番自然なことだと思います」


日本料理

木の生命力に触れ、不思議な自然の力の中で生きている人間。木が気づかせてくれます。

日本料理

「木は根を張って、葉を茂らせ、花を咲かせ、実をつける。人間はそういった自然界とリンクし、自然の恵みをいただいて生きています。水も自然の恵みのひとつです。店では、静岡から運んでくる井戸水と、伊豆の天然水を使っています。井戸水は安倍川の伏流水です。水は森林と密接な関係がある。森がきちんと育たないと、いい水、おいしい水になりません。
 山を見て、川を見て、自然に触れて、不快に感じる人はいないでしょう?しかし、いつの間にか、大事なことを忘れてしまっていると思います。
 私自身、閉ざされたマンションや満員電車の中といった自然がない環境では、ストレスを感じてしまいます。静岡で過ごした子どもの頃、川で鮎をとったり泳いだり、カブトムシをつかまえたり、自然の中での経験したことがからだにしみついている。だから自分の店は必然的に、自然のものに囲まれた空間となりました。ここにいると、人間は木の生命力の中で生きている、不思議な自然の力の中で生きている、と感じます。
 人間も動物。自然に触れて生きるようにできているんです。それを忘れてはいけないと思います」


日本料理

奥田 透さん

Owner


銀座 小十 店主
奥田 透
Shigeyoshi Asami

1969年静岡県生まれ。18歳で料理の世界に入り、静岡市「割烹旅館喜久屋」で5年、京都「鮎の宿つたや」で半年、徳島「青柳」4年間修業した後、1999年に静岡で「花見小路」を開店。2003年7月「銀座 小十」を開き、銀座進出を果たす。ミシュランガイド東京2008では三ツ星獲得。

●銀座 小十(こじゅう) 
東京都銀座8-5-25
第2三有ビル1F
TEL 03-6215-9544